2012年5月6日日曜日

2009年5月 - ON THE ROAD 青山繁晴の道すがらエッセイ


▼ぼくは、インドで今おこなわれている総選挙などを現地でみるために、きょう5月7日朝にインドの首都ニューデリー(デリー首都圏)に向け、出発するはずでした。
 しかし、先ほど5月6日の深夜に急遽、中止を決断し、数時間後に乗るはずだったフライト、それから現地のホテルなど全てをキャンセルしました。

 ただこれは、下に述べる『発信者としてのぼくに生じている、ある特定の責任』のためであって、みなさんがインドへの出張あるいは旅行を計画されている場合にも中止したほうがいいという話ではまったく、まったく、ありません。
 みなさんは、どうぞそのまま、できるだけ予定の出張あるいは旅行を変えないでほしいと願います。
 この書き込みを読み始められたひとは、ここでやめないで、最後まで目を通していただければと思います。

▼インドは、今回の新型ヒト・インフルエンザについて感染者はまだ確認されていません(日本時間5月7日未明現在)。
 そこで、ぼくも予定通りに出張する考えでいましたが、出発を数時間後に控えて、最新情報の最終確認をおこないました。

 インドでは『これまで12人について感染を疑い検査したが、すべて陰性だった。ただ、感染の可能性について検査中のインド人が、現在さらに5人いる。この5人も、陽性の可能性が特に高いとは言えないが、検体を国立感染研究所(デリー)などに送って調べている』という事実があり、これらのひとびとはいずれも、アメリカや欧州などから飛行機でインドに帰国したインド国民です。

 これらの事実は、5月6日朝には明らかになっていましたが、この関連の雑多な情報を最終的に集めてみると、働き盛りのインド人によるアメリカと欧州各国への往来が凄まじく活発なことが、あらためて良 く分かりました。

 そこで以下のように判断しました。

(1)今回、ぼくが訪問予定のデリー周辺は、すでに気温が45度を超す日があり、かつ多湿で、今回の新型ヒト・インフルエンザが流行しやすい環境ではない。しかしアメリカや欧州などからの帰国者に感染者がいる恐れはある。
 インド政府当局は、空港や港、陸路の国境などでの水際作戦で感染者を発見した場合は、国内感染者とはカウントしない(あるいは、したくない)考えのようだが、一般的には、水際での発見であってもインドは感染国となる。


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(2)感染国となっても、ぼくが滞在する予定のデリー周辺の高温多湿の環境からして、また、ぼくの滞在期間の短さからして、ぼくが感染するリスクはそう高いとは考えにくい。
 しかし圧倒的に肝心なことは、ぼくがテレビ番組などを通して視聴者すなわち国民のかたがたに「感染国に渡航した場合は、帰国後に在宅期間を置いてくださいませんか」と呼びかけていることだ。

(3)今回の新型ヒト・インフルエンザで推定される潜伏期間は、あくまで現状での推定ではあるが、もっとも短いケースで1日、通常は3日〜5日、長いケースで1週間ほど、そして最大限のケースとして可能性が否定できないのは10日ほどだ。
 この現在の推定に基づいて、ぼくはテレビ番組などで「感染者の発生した国に渡航したかたは、可能な限り在宅勤務や在宅学習など自宅に居ていただいてから、会社や学校に戻ってください」という趣旨を推奨している。
 これは、もちろんあくまで推奨であり、呼びかけであり、その期間も、事情が許さなければ1日だけということもあり得るだろうし、事情が許して、かつ最大限に慎重に行動するなら10日ということになる。

 ひとさまに対しては、どこまでも推奨だ。
 しかし、その推奨しているぼく自身は、渡航した国がもしも滞在中に感染国になってしまえば、帰国後に、最大限の待機期間を『責務』として自らに課さねばならない。
 法的な義務などではないが、これが発信者のモラルだから。

(4)ぼくのインドでの滞在予定は、関西テレビの報道番組「アンカー」への毎週水曜のレギュラー参加(出演)に縛られて、わずか実質4日に過ぎない(3日間 プラス 着いた日の夜と出発の日の午前)。
 水曜日の夕刻6時に生放送が終わり、帰京すれば、すでに夜遅い。翌木曜の朝に成田から出発しても、翌週の月曜午後にはインドを発ち、火曜の朝には成田に帰着していなければならない。
 なぜなら報道番組にふさわしい徹底的な事前のディベート(討論)を、放送の前日にディレクター陣と交わすために、火曜の昼には羽田空港から、大阪の関西テレビへ向かわねばならないから。

 しかし、たった実質4日の滞在とはいえ、そのあいだにインドで感染者が確認された場合、ぼくはモラルとして、帰国から10日ほど在宅勤務を自らに課さねばならない。


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 ぼくは帰国予定の5月12日火曜から10日間、すなわち5月21日木曜までのあいだに、講演が4回、関西テレビの番組への生参加(出演)が3回、近畿大学経済学部での講義が4コマ・6時間などといった予定が、本業のシンクタンク社長としての仕事以外に、すでに入っている。もちろん原稿もある。
 このうち関テレへの出演は、在宅のまま収録したりすることもあり得るかも知れないし、大学の講義はいったん休講にして補講を重ねていくことで解決できる。原稿は当然、書ける。
 しかし講演は、できない。すなわち、とんでもない迷惑を、主催者と聴衆のかたがたに掛けることになる。講演の講師や内容を直前に変えることは、主催者にとってあまりに難しいし、聴衆をも裏切る。

(4)インド滞在がわずかに実質4日であっても、講演会の主催者や聴衆に、結果として大きすぎるリスクを負わせるような行動はできない。
 また、ひとに呼びかけた本人が、その呼びかけを裏切るような行動(すなわち自分は専門家だからとか何とか言って、はじめから在宅勤務をしないか、正当な理由なく短縮するような行動)は決して、できない。そんなことは、しない。
 したがって、インド出張は、すべて中止する。

…以上が、ぼくの判断と決断です。

▼一方で、これでは『感染者が確認されていない国・地域でも、感染者が出るリスクがあれば、行くことができない』ことになり、『感染リスクのまったくない国・地域など、果たしてあるのか』ということにもなります。

 だから、ひとさまにこんな行動を求めることは、決してなかったし、これからもありません。
 関テレ「アンカー」で、外務省が渡航延期を勧告している国(5月6日現在ではメキシコだけ)以外の国には、みなさんが苦労して立てた予定通りになるべく行きましょうと、これも呼びかけた通りです。

 しかしぼく自身の責務は別です。
 そのぼくにとって、影響は図りしれません。海外の諸国を歩くことが、仕事のためにも思索のうえでも、常に大きな意味を持っていますから。
 現場主義をそれなりに貫いてきたつもりのぼくにとって、暗然たる思いです。


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 ただ、今後、有効性のある予防ワクチンが完成して接種できたり、流行の格段の弱まりや終息が日本政府やWHOによって宣言されれば、海外出張の再開を検討することも可能になります。
 そうなれば、帰国後の在宅勤務が必要かどうかも再検討できるからです。
 これも、たいせつなことです。
 あくまで流行の先行きが不透明な現在では、こうした最大限の厳しい決断を、おのれに対して下さざるを得ないということです。

▼正直申して、今から4時間ほどまえ、5月6日深夜には、15分間ほど、おおいに判断に苦しみました。

 悩んだ理由は、幾つもあります。

 まず、インドの総選挙は1か月にわたって投票が続く壮大で巨大なものであり、有権者は実に7億1400万人で、世界最大の選挙です。
 その終盤戦を現場でみる機会を目前で逸するのは、断腸の思いでした。
 黙って数時間後に、予定の飛行機に乗れば、とにかくその現場にまっすぐに行けるのですから、諦めるのは、もう一度言います、断腸の思いそのものです。

 現地で会う約束になっているひとと、会えないのも、残念至極です。
 そのひとなどは「もしもインドで感染者が出たら、青山さんは帰国後、最大10日の在宅を自らに課さねばならないから、土壇場でキャンセルした」とは決して、ゆめ、思わないでしょう。
「インドではまだ感染確認もないのに、なんと御身大事なひとなんだ」とか「案外、臆病だ」とか、きっと思うだけでしょう。
 世の中、そういうものです。誤解、曲解がてんこ盛りなのが浮き世、憂き世ですから。


……そのまま日本に帰らないでいいのなら、つまり帰国後にひとにうつす怖れを考えなくていいのなら、感染の危険がどれほどあろうが、ぼくは行っている。
 あるいは、これが、ひとに迷惑をかけるかも知れない感染症ではなくて、ぼく一人が死ねばいい戦争だったら、イラク戦争下のイラクに入ったように、必ず、インドにもこのまま行っている。
 インドの総選挙ではテロが頻発していて、すでに多くの死者が出ている。「テロのリスクを考えて、この時期のインドは避けた方がいい」と心配してくれた公職にいる知友もあったけれど、テロのリスクはこれまでも山ほど直面してきた。
 ただただ、帰国後にひとに迷惑をかける恐れだけで断念する。
 しかし現地で会う約束のひとは、これからずっと「なんだ、案外、青山さんは自分の身がそんなに可愛いんだ」と思うだろうナァ……という思いも、ぼくの疲れた頭をよぎりました。
 あんまり嬉しい誤解じゃないだけじゃなく、これからの人間関係や情報収集にも、ちと影響しそうです。

 それに直前の土壇場キャンセルだから、キャンセルのためのコストも大きい。
『モッタイナイ。このまま黙って行けばいいじゃないか。渡航する今の時点では、インドに感染者は現にいない、ゼロなんだから。渡航してからインドに感染者が出てしまったら、講演会の主催者も聴衆も、ひょっとしたら許してくれるかも知れない、自分たちにうつされる可能性があるより講演会の中止や延期のほうがマシだと思ってくれるかも知れないじゃないか』と、ささやく悪魔の声も、ぼくの耳の奥に、ごく小さくはあっても、正直ありました。

▼しかし、とにかく最後は、「ひとさまにお勧めした以上は、自分はその推奨の選択肢(オプション)のなかでも最大のことを実行せねばならない」ということに尽きます。
 ですから、実際の判断は一瞬で致し、ずいぶんと前から予約していて楽しみだったJALのフライトをばっさりとキャンセルし、おのれの退路を断ってから、関係先に連絡していきました。


▼今は、こう思っています。
 インドにいるはずだった数日間は、当然ながら、日本でのアポイントメントがありません。
 独研(独立総合研究所)の秘書室にお願いして、このまま一切のアポイントメントを入れずに、原稿、原稿、ただ原稿に集中し、この無念の決断をむしろ活かしたいと思っています。
 ふだん、いつも、原稿を書く時間がとれないことに苦しみ続けているのですから。

 現地の情報では、デリーは5月6日、炎暑の47度を記録したそうです。
 そんなところを歩き回っていたはずだと思えば、東京で徹夜、徹夜、徹夜の荒行(あらぎょう)だって、できるはず! 



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